顎骨骨髄炎とは 

顎骨骨髄炎とは、口腔内の歯周病原細菌による「辺縁性歯周炎」や「根尖性歯周炎」が、顎骨内の骨髄にまで進行することで、顎骨骨髄部が炎症を起こす感染症のことです。特に頭頸部の悪性腫瘍(癌)に対する放射線治療後に、顎の骨の細胞活性機能が低下してしまい、感染を引き起こす骨髄炎を「放射線性骨髄炎」と呼びます。顎骨骨髄炎は、様々な症状を引き起こし、時にとても治療が困難となる疾患です。顎骨骨髄炎は上顎、下顎いずれにも発生しますが、下顎骨の特に臼歯部に多く見られます。

健康な方でも、虫歯が進行すると歯の神経にまで炎症が起きてしまった場合は、歯髄炎を起こし、放置すると歯髄が壊疽します。壊疽した歯の神経(歯髄)から感染が歯周組織へと広がることで、歯槽骨炎や、さらに広い範囲の顎骨炎へ悪化してしまいます。骨髄炎になってしまった場合、本来は血液が豊富な骨髄が固くなり、血液が乏しくなる場合があり、感染やそれに伴った痛みなどの急性症状や、抜歯やインプラント埋入後の治癒がしにくくなる原因となります。骨髄炎の経過によって、急性と慢性に分けられます。

急性顎骨骨髄炎

急性顎骨骨髄炎の多くの場合は、虫歯や歯周病によって発症し、顎の骨の深部に痛みを生じ、顎部分の痛みとともに側頭部に頭痛を伴います。炎症が骨膜に広がると、骨膜炎となり下歯槽神経や、眼窩下神経の領域部分に知覚麻痺が生じます。下顎骨骨髄炎のオトガイ(下顎)神経領域に生じる知覚麻痺を「ワンサン症状」といい、下歯槽神経の機能障害、あるいは神経異常が原因で生じる症状です。炎症を起こした部分の歯が動いたり、歯を軽く叩いた時に響くような痛みが原因部分の歯だけでなく、その歯に接触する骨植は強固な歯にも症状が見られることがあります。これを「弓倉症状」といい、臼歯部の下顎骨骨髄炎の指標となるため、早期の診断が必要です。弓倉症状は、他にも顎下リンパ節の痛みと腫れを伴います。全身症状としては、軽い発熱や高熱を起こします。骨髄炎は悪化すると必ず骨膜炎を発症してしまうため、骨髄骨膜炎となり、総称して顎骨炎ということが多いです。

治療には、抗生物質、消炎剤、鎮痛剤の薬物療法をおこないます。初期の段階においては、抗生物質の点滴投与が効果的です。起因菌に対する抗菌剤の治療が効果を発揮するのですが、感受性テストの結果が分かるまでには、数日かかってしまうので、パッチテストや皮内テストなどの薬剤過敏皮内テストをおこなっている間は、広範囲で抗菌力の高い抗菌剤を投与します。また口腔内の洗浄をおこない、歯周ポケット洗浄や根幹内に溜まった感染原因の排除をおこないます。症状によっては骨皮質に穴を開けたり、抜歯をおこない骨髄内圧を減圧し、膿瘍があれば切開し排膿をおこないます。

慢性顎骨骨髄炎

慢性顎骨骨髄炎は、常在菌の中の弱い細菌による感染、または「パジェット病」や「大理石病」のような長期に及ぶ異常栄養の骨に生じやすいです。また急性骨髄炎や、急性骨膜炎に続発します。血管塞栓や骨組織壊死のため骨が腐ってしまい、骨組織の一部が骨髄内に残留して腐骨を形成したり、「骨柩」という異常な骨形成が生じます。腐骨の形成は小児期などの早い時期に起こりやすいです。痛みやの腫れは軽度ですが、腐骨を囲む骨柩内から膿が歯茎と頬の間を通して排出されます。排膿が続いている間は、痛みや腫れを全く感じないことがありますが、骨は大きく破壊されている場合は、まれに病的骨折が生じることもあります。早期のX線検査では、顎の骨部分の異常は見られないことも多く、骨髄炎は発症してから約3週目になって、初めて異常が見られることがあります。骨組織の異常や、骨梁の消失、骨の透過が進む、斑紋状陰影などが見られます。

「骨シンチグラフィ」(骨に集まる放射性薬剤を静脈投与した後、放射性薬剤の集積程度を特殊なカメラで撮像することで骨の代謝状況を調べる検査)では、X線での異常が見られない骨髄炎を核医学検査により、比較的早期に発見できますし、CT検査においても骨破壊が見られます。膿瘍がある場合は切開して排膿をおこない、原因歯とともに歯髄が死んでいる歯や、動揺の著しい歯の抜歯をおこないます。腐骨や感染骨組織は、外科手術によって切除し、排出をはかるとともに、原因歯に対し感受性の高い抗菌薬を投与することが効果的です。除去する骨片が大きい場合は、術後の骨折予防に十分注意して、顎の骨の固定もしくは骨移植をおこないます。

歯性上顎洞炎

上顎に虫歯や歯周病を引き起こし、細菌による炎症が上顎洞に波及することを、歯性上顎洞炎と呼びます。上顎洞は、上顎の歯根と接近しているため、虫歯や歯周病を治療しないで放置していると、「歯性上顎洞炎」になることがあります。急性の場合、歯痛に続いて悪臭を伴う膿を含む鼻汁や、頬部の痛みが生じます。慢性の場合、歯の痛みは比較的少ないです。鼻性は両側に見られますが、歯異常は片側だけに起ることが多いです。上顎洞炎の治療と、原因歯である虫歯や歯周病の治療を同時におこなう必要があります。

おすすめの記事