日本で行われているインプラントの現状

日本にインプラントの治療技術が導入されたのは、1960年頃といわれています。当時は、インプラントに対して否定的な意見も多かったようですが、現在は様々な治療技術の向上により、審美性や安全性なども向上していることから普及が進んでいます。それでも、日本のインプラント治療はアメリカやスウェーデンなどの歯科先進国に比べると10倍ほど遅れているといわれており、まだまだ発展途上というのが実情です。

インプラントの治療技術や研究情報に関するカンファレンスには、日本も積極的に参加しており、常に最新の知識を吸収しています。しかし日本では、海外で開発された最新技術を国内に持ち込む場合、本当に安全なのか、治療をおこなってもトラブルなどが起きないかの再確認をおこないます。そのため、実際にインプラント治療の技術としての導入にも時間がかかるので、一般に普及するまでにはさらに時間が必要になってしまいます。個人の歯科医院まで最新の治療技術が広まるのは、国内に導入されてから10年以上は先になるといわれています。

近年では、歯科医療に対する考え方も変化しており、これまでのような「虫歯になってから歯科医院で治療をおこなう」という考え方から、「虫歯にならないために歯科医院で予防する」という「予防歯科」取り組みに力を入れている医院も多くなっており、歯の健康に対する意識も高くなっています。

実際、アメリカなどでは、歯科治療は保険が適応されないことから、予防歯科の意識は非常に高く、歯の汚い人は出世できないなどの、仕事において不利になってしまうという現状があります。白くキレイな歯はステータスになるのです。

歯科医の技術的な問題からトラブルも

過去にはインプラント治療をおこなう際に、歯科医院の徹底した衛生管理がおこなわれていなかったり、高度に設備や歯科医師の技術が未熟なことが原因で、事故やトラブルへと繋がってしまったケースもありました。例えば、不衛生な手術環境から細菌感染を起こしてしまい、インプラント体と顎の骨が結合せずに、インプラント体が抜け落ちてしまったり、細菌感染によって骨が徐々に溶かされてしまい、インプラント体を支えることができなくなり、術後にインプラントが脱落してしまうといったトラブルが起こったり、手術中に麻酔をかけているにもかかわらず、突然激しい痛みに襲われた方もおり、その原因は上顎の骨に埋入したインプラント体が、顎の骨を突き抜けて奥にある「上顎洞」という空洞部分に落ちてしまったことによるものでした。他にも、下顎の歯のインプラント治療をおこなう際に、不適切な位置や方向にインプラント体を埋入してしまい、神経や血管を損傷させてしまうトラブルが起こったケースもありました。このようなトラブルが起こっても、再手術により無事に治療ができる場合もありますが、中には死亡事故に至ったケースもあったようです。しかし、近年では歯科医師の技術の向上や、高度な医療機器や医療設備の導入や設置によって、インプラント治療におけるトラブルや治療のリスクは大きく減少しています。

日本におけるインプラントの現状

インプラント治療は保険適用外治療のため、費用も高額になってしまいますが、歯を失った際に歯の機能を取り戻す入れ歯や、ブリッジなどの他の補填治療に比べて、多くのメリットのある治療方法です。また、定期的なメンテナンスをしっかりおこない、口腔内を清潔に保つことで、インプラントは半永久的に使用することも可能です。健康で快適な生活を送ることのできるインプラント治療は、今後ますます需要が多くなると考えられます。

しかしまだまだインプラントは問題を抱えており、その一つが感染症の危険です。どうしても細菌のリスクは完全になくすことはできないため、どれだけ口腔内を清潔な環境を維持できるか、細菌からインプラントを守るための予防策などが考えられています。他にも治療期間の長さも問題の一つです。インプラント体と顎の骨がしっかりと結合する「治癒期間」を設けることが大きく起因しています。現在でも、骨とインプラント体が、なるべく短い期間で、しかも確実に固定されるための研究がなされています。

歯科医師に対する教育や、インプラント治療の技術指導の強化の実施

近年、歯科医師を取り巻く環境も少しずつ変化していることから、積極的に最新の技術を学ぶ歯科医師が多くなっています。歯科大学でも、インプラントの基礎から解剖学、歯周病、噛み合わせなどの治療に関わる総合的な指導がおこなわれており、実習を通じた技術指導をおこなうなどの動きもでています。

また、インプラント治療の専門医を認定する「日本口腔インプラント学会」も、「歯科インプラント治療専門医」の認定には、100時間の研修修了と試験に合格することを必要条件としています。これらの動きには、インプラント治療において、歯科医師の幅広い知識や高度な技術が必要だと認識されるようになった証だといえます。

一方で、厚生労働省は「インプラント治療は健康保険適用外の自由診療なので、あくまで患者と医療機関との契約に基づいておこなわれるものであり、強制的な指導はできない」という立場を表明しています。しかし、大学や学会の動きによって医療トラブルが減少しているのは事実なので、さらなる安全面や患者さんへの配慮した治療をおこなうことが重要なのです。

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